歌
欲望におもむくままの日がつづいている。
なんというか押さえきれない。
変な男に会いにいったり、まともな男に諭されたり。
夜10時を過ぎると、帰りたくて仕方のない編集長は
ずいぶんといい加減で、それでいて本音を話すような人になる。
その日あったむかついたことやら、残業している人をからかうやら
多分一日言いたくて我慢していたことを言うのだと思う
そんなとこに原稿を持ってたら、にやっとした顔で
「見てほしいの?」といわれ、何だか誤変換をしてしまう
編集室の先輩はいつもぬぼーっとしている。
やる気のある押しの弱い人でいることに長けていて
とにかく仕事に隙がないし、メールは完璧
守りが固過ぎて攻めようという気が起きないタイプ
エロさをみじんも感じさせないくせに
「僕は妻一筋だからね」と予防線を張ってきたのでなんだかいらっとした
日曜日に掲示板で会った人のところに会いにいく
なんでも黙って縛ってくれるのだという
1時間くらい遅刻したので、怒れる男がくるかと思いきや
目の優しそうな穏やかな人でなんだか寒気
しかも余計なことをぺらぺらと喋り
「目を見て」と迫ってきて、一種の吐き気すら催した
恋人を交換したら案外しっくりいった話と虫好きと変人好きカップルの話。
絵が重くないのと、話が軽いのとでブルボンのプチシリーズみたいな感じ。
私は好きな人の前でカラオケをすると下手になる
という悪癖があり、好きかどうかをそれで判断する
調子の外れた歌を聞かせて、恥ずかしいところを見せる
翔
欲求は連鎖しているというけれど
なんだかいつも飢えた気分になってしまう
そんな1週間がひと月に一回くらいある。
土曜日はいつも編集長は休む
此れ幸いとここのところ溜まっていた
愚痴やら不満やらなんだかつまらなさや
そういったものをお局さんにはなしてしまう
眉間にしわを寄せていると頭をなでてくれて
なんだかかっこいいが、やっぱり同性には惚れないなと思う
異動になった編集長とのみに行く話がありついていく
赤いチェックのシャツに短パンでなんとも気の抜けた格好だが
一番らしい気がする格好でもあり安心する
どうも泣きつきたくなってしまうタイプの人なのだけれど
そんなことをしたら迷惑なのはわかっているのでしない
「お前そんな不思議ちゃんだったっけ」といわれ、なぜかときめいた
酔っぱらったはずみで、よその編集長への片思いを相談
話しているうちにすっきりしてしまったが
聞き手達は余計に盛り上がってしまい
話すつもりもなかったことをついべらべらと
ダメかもしれないという思いが強くなってしまい
今日またお酒の力を借りてメッセージを送ったが反応はない
ロミオとジュリエットのにおいがするようなしないような東京と埼玉の話。
絵のうるささがなんだかツボ。
翔べれば楽なのに
落ちていければ楽なのに
立っているのが辛い
蚊
ダイエットの一環で、普通に食べる日と断食する日を交互にというのをやっている。
断食の日にプールで泳いだらなんだか体が軽い気がする。
ただもうちょっとふわふわした人になりたい。
編集長といえば、ちょうど1年前くらいに、衝撃をうけたことが
虫が飛び始めるちょうど今みたいな中途半端な季節で
支社は、換気は悪いのに隙間だらけというすさまじい環境なので
ちょっとしたやつ、ひいてはたまにおっきい輩が登場する
そんな中で、机に止まったコバエをごめんねといいながらつぶしていた
問いただすと、私が殺生を好まない人だったらと思って謝ったそうである
よその編集長から久しぶりに連絡がきた
何でも研修で自分の話題がでたからだそう
うれしいような恥ずかしいようなで、もそもそとした返事になってしまう
向こうは返信しづらいものがあると、黙り込むか絵文字
ギャグと好意の狭間で、会話の長続きに気を配りながらで
なんだかエナジーだか血だかがどんどん吸われていくような気分
スーパーの「しょうゆ・つゆ」売り場にいた男の人
断食後の朝ご飯というのは特別においしいし、
考えるのも楽しいもので、空腹を紛らわせながらの食材選びも
修行みたいではまってしまいそうなものがある
なすの煮浸しが食べたくて、サボろうとめんつゆ売り場へ向かうと
何を手に取る訳でもなく、棚の前で困っているお兄さんがいて、好みだった
女性の官能を刺激する蚊に、というか、その蚊にさされた女と戦う少年の話。
下ネタの恐ろしさ、面白さ、使いどころをダイレクトにとらえた作品。
蚊に刺されたことを理由に、かゆい情けない顔を見られたい
蚊をしとめたことを理由に、「この血だれのですかね」とか言って身体検査したい
蚊がとまったことを理由に、思いっきり二の腕を叩かれたい
波
昨日、母親が止めてこないのを良いことに
つまみを好きなものだけ買い込んで
ふんわり鏡月をかわいらしくない量呑んだ。
編集長が、今号の数字の話を朝からあれこれと話していた。
こっちは目も腫れているし、多分酒臭いし
午前のミーティングはいつもこんなに長くないじゃないかと思いつつ
つい頭に浮かんだことを発言したら思ったより火がついてしまって盛り上がり、
どうお客さんと駆け引きすればいいかなんてことを聞かされていたら
気持ち悪さの波が来て、退席して吐いてしまった。
異動になった編集長と電話でひさびさに話した。
語るのが大好きな人で、会社に入ったばかりの頃はいろいろな心構えを教わった。
記者とはいったいどういう仕事か、自分たちにしかできないことはなにか
蒸留酒と醸造酒は一緒に飲むな、お前は呑むと人格が変わるから危うい
そういえば、ある支社の同期が独身で変なやつだ
そう投げるだけ投げて、いなくなってしまった、声の波には元気がなかった。
無礼な非通知の電話がかかってきて、不躾な男の対応をした。
会社名を後で調べたら不動産投資の詐欺まがいのところらしい。
自分も営業もやっているから無下にはできないと、はじめこそ丁寧に話していたが
支社長はいないのか、おりません、その次に役職の高い人に替わってくれ
用件をお伺いしますが…、対応できる男の人に替わってほしい
波風は立てたくなかったが、どうしたものかと思っていると編集長が交代してくれた。
美人の親にコンプレックスを感じている女教師が、ラーメン屋の男とくっつく話。
容姿なんて関係ない、という恋の話はよくあるけれど、くどさがなかった。
気持ちに波があるのは、自他ともに認める自分の性格。
調子いい時は引きが強く、悪い時は水底でじーっとゆらゆら。
波に顔を押し付けられて、頭を冷やされて、少しまっとうな人間にしてほしい。
河
どうしてもやる気が出なくてうじうじしている。
片
嫌という程晴れた日が続いて絶不調。
クーラーをかけた車の中で、悶々。
夏が来てしまったら本当にどうしたものだろう。
煙草を吸いながら、編集長の愚痴をこぼしていたら
気がついたら背後にいたなんてことがあり
さらには、「自分なんてこの野郎と思われるくらいでいい」
などと言ってくれるものだから、なんだか本当に
この人の笑顔は怖いなあ、と涼しい夜風の中で思った。
片手で灰皿、もう一方の手にライター、なんだか間抜けた所を見られた。
デスクが向かい合っている別の編集長が、なんだか機嫌が良かった。
結構な時間をおしゃべりに費やしているのがその証拠で
私が渡した記事のことで、とやかく言っていたけれど
怒っているという雰囲気ではないので、話題をすり替えながらごまかす。
そういえば朝も、いつのまにかヒルの話をしていた。
「無理矢理はがすと、口の破片が残るんだそうですよ」と言うか迷ってやめた。
営業エリアではりきって活動しているおじいさんのAさんに呼ばれて飲み会に。
車を使う用事が明日あるので、お酒を召すわけにもいかず。
御年いくつか知らないけれど、LINEもやるし、楽器も披露。
軍歌を歌う老人がいて、音もわからないのに合わせようとして不協和音。
手や肩やら太ももを触ってくるので適当にしていたら奥さんが見ていた。
片付けを手伝いながら、ご婦人方に気を使って疲労。
『片恋の日記少女』中村明日美子(花とゆめCOMICS)
印象で勝手な恋を展開する教授の息子が、その相手を探す話。
筆者が描く女の子は華奢だけれど、それ以上に男が綺麗。
一方的なイメージで、キャラクターづけられる時期が
社会人2年目になったことで崩壊しつつあり、
色んな人と出会いすぎて、片思いばかりしている。
犬
雨女の私は、晴れの日は話が決まらないことが多い。
蟻が事務所の周りで行列を作っていたので、
女性社員らはどうやって退治するかをうれしそうに話し合っていた。
編集長と半期の賞与査定の話をする日だった。
もともとそんなに意味のない、自己評価の提出なのであまり気に留めていなかったが
しきりに今年、自分ががんばっていたことをほめてくれる。
この人に慰められたり、ほめられたりするとやたら泣きたくなる。
優しいのか怖いのかわからない人で、脳みその端が熱くなる。
犬っぽい、猫っぽいの判別がつかない人。
地元ミュージシャンの所属事務所の社長と定例会で会った。
自分と2つ位しか違わないのに、もう離婚を経験している。
しかも、卒業した大学の人だったと聞いて世間の狭さを感じる。
「来年結婚に良い年らしいんです」とふってみたところ、
漫画のキャラクターの名前を上げておすすめされる。
二の腕をつままれて500g痩せたねと云われ、犬みたいな茶髪だなと思う。
マンションの警備員の横顔が、前の前の彼氏にそっくりだった。
引け目を感じているふりをして、しきりに謝る人だったが、
あくまでそういう体なだけで、何も思っていない感じ。
起こる不祥事は、誰のせいでもないから、自分のせいでもないよ、
とでも言いたげな表情が、とてもしんどい時は助かったが、
そうでないときはひたすらその犬みたいな視線にイライラした。
『僕は犬』米代恭(少年チャンピオン・コミックス・タップ!)
ある少女の家に勤める、男性があーでもこーでもないとぐだぐだ不平を言う話。
いいくるめられる男が犬というよりは、少女の方が犬だろう。
わがままでごめんと言えば、もっと言ってと言い、
言うことを全て聞けと言えば、できないと言い、
何ができるかと言えば、犬にはなれないと言う。